重いものと軽いものを同時に落としたときにどちらが速く(早く)地面に着くでしょうか?ただし空気抵抗がないとします。
重いものが速く落ちるのか
この問題を子供に投げかけてみると、小学校低学年ならほぼ間違いなく「重いもの」と答えるでしょう。
答えはもちろん「同じ」ですね。
間違えていませんでしたか?
ちなみに空気抵抗があっても、私たちの身長ほどの高さからの落下であれば、ピンポン玉と鉄球でも、驚くことにほとんど同時に落下します。
かく言う私も、小学校低学年のときに「重いものと軽いものは同時に落ちる」と本に書いてあるのをみてびっくりしたクチです。
それは無理もないことで、私たちはボールが体に当たったときそのボールが速いほど「痛い」ことを経験として知っています。
この「痛い方が速い」というのは子供のころ遊んだドッジボールでもキャッチボールでもなんでもいいのですが、そのときの体験として染み付いています。
それならば、重い荷物と軽い荷物をつま先へ落としてみればどちらがより痛いのか・・・・これは子供にも簡単に想像がつきます。
かくして、子供は「痛い」方が速いと信じ、重いものが軽いものより速く落ちる・・・と思ってしまいます。
これを「子供の科学」とか「素朴概念」「ミスコンセプション」などというようです。
「重いほうが速い」という考え方は紀元前のギリシアの偉大な哲学者であるアリストテレスも書物に残しています。
物体の落下する速さはその重さに比例する
つまり、2倍重いものは2倍の速さで落下する
この間違った概念を人類が完全に払拭するのになんと2000年近い年月が必要だったのです。
それは、あのガリレイの時代にまで待たねばなりませんでした。
かの有名な「ピサの斜塔からの落下実験」はごぞんじですか?
もっとも、この話は後年の創作といわれていますが・・・。
ともかく、中世になるまでアリストテレスの主張は広く信じられており、疑う者がほぼいなかったということは驚くべきことかもしれません。
それほど、この素朴概念は人間にとって強固なものであったのです。
あなたも周りにもこの素朴概念にとらわれている人が必ずいます。
そんなときには次の思考実験を紹介しましょう。
なんて言うでしょうか?
ベネデッティの思考実験
物体を落下させる思考実験を行います。
この思考実験はイタリアの学者ベネデッティ(1530-1590)によりなされたものといわれています。
前提・・・重いものが速く落ちる
この前提が正しいと仮定します。
このとき、この条件では当然、「重いもの」と「軽いもの」を同時に落とすと「重いもの」が先に地面につきます。
次に、「重いもの」と「軽いもの」を接着剤などでくっつけて落としてやります。
さて、この結ばれた物体は速く落ちるのでしょうか?それとも遅くなるのでしょうか?あるいは・・・?
答えを考えてみましょう。
そのさいに、カンではなく、間違ってもいいのでかならず考えてください。
この「考える」という作業があなたの思考力を鍛えるのです。
これが物理上達の秘訣となります。
さて、二つの物体を一つとして考えれば、全体ではより重くなっています。なので、「重いもの」よりも速く落ちる・・・・ですか?
それとも、「重いもの」が落ちる時に「軽いもの」がブレーキになるので・・・全体としては遅くなる・・・でしょうか?
どちらかが間違っていてどちらかが正解のはずですが・・・。しかし、前提条件からはこの二つとも正解のように思われます。
これを矛盾というのですね。
この矛盾を解くためには・・・・前提が間違っている!・・という結論が一番しっくりきそうです。
つまり、「重いもの」も「軽いもの」もその重さに関係なく同時に落ちるのだ・・と考えるとすべての場合で矛盾がありません。
イタリアの科学者ガリレオ(1564-1642)は落下に関する詳細な実験を繰り返し、「重いものも軽いものも空気抵抗がなければ同時に落下する」という確信に至ります。
かくして、2000年来の間違った考え方は正されることになったのです。
こういう人もいるかもしれません。
鳥の羽と鉄の球をおとしてやると圧倒的に鉄の球が速く落ちるではないか?
これは皆さんお気づきのように、もちろん空気抵抗によるものです。
(これにより落下物には終端速度というものが考えられます)
アポロ15号の実験
ガリレオから300年以上たった1971年、アメリカのアポロ15号の乗組員により一つの実験が行われました。
月面で「鳥の羽」と「ハンマー」を同じ高さから同時に落としてみたのです。
月面上は真空ですから、当然のごとく、鳥の羽とハンマーは「同時に」地面に落ちたのでした。
以下から見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=41&v=l7tEA8Vtc0o&feature=emb_logo
飛行士の言葉・・・「Mr. Galileo was correct in his findings.」
ガリレオが発見したことは正しかった!