なんだか、わかったかわからないかよくわからないことも物理には多いですね。特に基礎的な概念ほど、その傾向が強いように思うのは私だけ?
向心力と遠心力はつり合うか?
このような認識は間違いです。
次のような認識は間違っています!
円運動においては、回転運動の中心に向く向心力と、回転運動による遠心力は常に一直線上反対向きである。したがって、円運動が保たれている限りは、向心力と遠心力はつり合いの関係にあり、打ち消しあっている。
学校の物理の先生、あるいは大学教授のような物理の専門家でも時として間違うことだってあります。
これは、以前に取り上げた「作用-反作用」問題もそうです。
簡単な概念ほど難しいように思います。
恥ずかしながら、私は最初、質量の意味がよくわかりませんでした。
(…重さとどう違うんだ??? 今でもよく覚えているワケワカメだった文章…「重さは質量に比例します。」)
「わかった」というか「腑に落ちた」と思えたのはずいぶん学習が進んでからです。
これらの基礎的な概念について正しく理解していない場合でも、試験の問題を解いたりすることはできますが…。
向心力と遠心力はなぜつり合わない?
なぜ、向心力と遠心力はつり合っていないのでしょうか?
例えば、地球の周りを周回する人工衛星を考えてみます。
地球外で静止している宇宙人から見て、この人工衛星にはたらく力として考えられるのは、万有引力です。(ここでは地球の公転は考えなくてもよいとします。この設定は異論がある人が見えるでしょうが、簡単のためそうさせてください。)
この万有引力が、向心力となって人工衛星の回転運動を引き起こしています。
この場合は遠心力はありません。というか、考えてはいけません。
なぜって?
もし、宇宙人から見て、遠心力と向心力がつり合っているのだとしましょう。
そうすると、
ニュートンの慣性の法則
物体に力がはたらいていないか、はたらいていてもつり合っている場合、物体は静止または等速直線運動を続ける。
に従うと(これに異存はないですね?)、人工衛星は回転運動をすることなく飛び去って行かなくてはなりません(等速直線運動するのですね)。
したがって、遠心力はないし、向心力とつり合ってもいません。
でも、自動車に乗ってカーブを曲がるときに確かに外側へ押し出される力を感じるけど・・・・、あれが遠心力では?
それは遠心力です。
でも、遠心力はないんでしょ?
いや、観測系によって、
遠心力はあったりなかったりするんです。
車内の人は遠心力を感じています。
遠心力とは?
なんだか禅問答のようになってきましたが、簡単のため以下、等速円運動として考えます。
つまり、
-
- 等速円運動する物体を外部の静止系から眺める立場‥‥向心力を考える。
- 等速円運動する系から眺める(回転を認識しない)立場‥‥遠心力を考える。
ということです。向心力とは回転運動するための力ということになります。
したがって、これら二つの力は同時に現れることはないですね。
等速円運動する物体を外部の静止系から眺める立場
運動方程式を考えます。
$ma=F$
より、$F$ という向心力がはたらき、物体を円運動させます。この場合の加速度は、向心加速度とよばれ、加速度 $a$ も常に回転中心に向きます。
等速円運動する系から眺める立場
遠心力を考えましょう。
遠心力は慣性力の1種です。慣性力は 質量×加速度 の力がはたらきます。
すなわち、(回転の加速度と逆向きに) $ma$ の大きさで現れます。
遠心力は
$ma=m\dfrac{v^2}{r}=m{r}{\omega ^2}$
となります。
人工衛星に乗っている人からの視点から考えます。
そうすると、宇宙飛行士にはたらく力は地球との万有引力と遠心力です。
この場合の万有引力は向心力とはいいません。
宇宙飛行士の視点では自分は静止しており、
回転運動などしていないからです。
向心力とは回転運動させるための力の呼称であって、
重力とか張力とかのような特定の力としての「向心力」
という力があるのではありません。
宇宙飛行士にはたらく力は地球との万有引力と遠心力がつりあっており、宇宙飛行士の視点から見れば自分は静止しています。
自動車の例では
回転運動する自動車の車内の人は、遠心力を感じ、かつドアなどからの抗力を同時に感じて、これらがつり合っていると考えます。そして、車内の人は車内では静止しています。
地面で静止している人から見れば、ドアなどからの抗力が向心力となり、車内の人を円運動させています。この場合、遠心力はありません。
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