くさび型空気層の光の干渉
くさび型空気層というものは平面なガラス板を二枚用意して合わせ、一端に薄い紙などを挟んだものです。図は装置を真横から見たものです。
このくさび型空気層の真上から単色光を照射すると、不思議な模様が浮かび上がります。
これは、空気層で光が干渉して起こる現象です。
上の図は、単色光を照射したガラスを真上から見たものです。
ガラス表面上に 等間隔 の黒い縞模様(干渉縞)が見えます。(等間隔であることに注意)
このとき、ある干渉縞の真真上で観測しているとします。
そうすると図より、空気層の隙間の長さを $d$ とした場合、図の赤で示した(下側のガラス表面で反射した)光は青で示した光に比較して $2d$ だけ余分な距離を走っていることになります。
また、ガラスの表面での位相の変化を考えると、赤で示した光は位相が $\pi$ だけずれていますから、ヤングの干渉実験の式において、明暗条件が逆転することに注意して、
暗線 : $2d=m\lambda$
明線 : $2d=m\lambda + \dfrac{1}{2}\lambda$
$m=0,\:1,\:2,\:3,\:\cdot\cdots$
となります。
反射の際の位相変化は
屈折率小 ⇒ 屈折率大 へ行こうとして反射・・・位相 $\pi$ 変化
屈折率大 ⇒ 屈折率小 へ行こうとして反射・・・位相変化なし
ここで、暗線について考えてみましょう。
紙の厚み $D$ 、ガラス板の長さ $L$ 、観測している 暗線 の図の O からの距離 $x$ 、ガラスの傾きを $\theta$ としてやると、
$\tan \theta = \dfrac{d}{x}=\dfrac{D}{L}$
単純な比例式 $x:L=d:D$ でも同じことですね。
よって、
$d = \dfrac{D}{L}x$
暗線の条件から $2d = m\lambda$ だから、 $d = \dfrac{D}{L}x$ を代入して、
$2d=2\left ( \dfrac{D}{L}x \right ) = m\lambda$
よって、
$x=\dfrac{mL\lambda}{2D}$
ここで、$m$ 番目の $x$ という意味で $x$ を $x_m$ と表記することにします。
すると、
$x_m=\dfrac{mL\lambda}{2D}$
ここで、暗線の間隔を $\Delta x$ としてやると、
$\Delta x = x_{m+1}-x_{m}$
$~~~~~~ = \dfrac{(m+1)L\lambda}{2D} \:- \: \dfrac{mL\lambda}{2D}$
$~~~~~~ = \dfrac{L\lambda}{2D}$
ゆえに暗線の間隔(注意:明線の間隔も同じですね!)
$\Delta x = \dfrac{L\lambda}{2D}$
となります。
$\Delta x$ の値はガラスの長さ $L$ 、挟み込む紙の厚み $D$ 、光の波長 $\lambda$ で決まり、それらを変えなければ一定値です。
したがって、
暗線(明線)は、等間隔で観測されることがわかります。
では、次に盲点になりそうな問題をやってみましょう。
問題
問題1 はさむ紙を薄くすると?
ガラスの間にはさむ紙を薄くすると、観測される暗線(明線)間隔 $\Delta x$ は広がるか、狭くなるか?
問題2 透過光はどうなるか?
ガラスの真上から単色光を照射しておいて、ガラスの真下からその透過光を観測する場合、
真上から見て暗線だった位置で観測されるのは、明線か暗線か?
問題3 Oでは暗線か明線か?
真上から見て、2つのガラスの合わさるところ(図の O )では明線か暗線か?
答え1
問題
ガラスの間にはさむ紙を薄くすると、観測される暗線(明線)間隔 $\Delta x$ は広がるか、狭くなるか?
答え 広くなる
理由
$\Delta x=\dfrac{L\lambda}{2D}$
において、$D$ を小さくすると $\Delta x$ が大きくなることから明らかです。
ただし、ガラスのなす角 $\theta$ が小さくなると、次に条件を満たす暗線(明線)までの間隔は広くなる、
というイメージを持つことが大事です。
次の図を見てください。隣り合う暗線(明線)について考えています。
注意:図は誇張して描かれています。
図より、暗線(明線)同士の赤で示した光の長さの差は $2 \times \Delta d$ ですが、この中に暗線の場合でも明線の場合でも $\lambda$ の長さの光が入る必要があります。(よって、図の $\Delta d = \dfrac{\lambda}{2}$)
なぜなら、
暗線 : $2d=m\lambda$
明線 : $2d=m\lambda + \dfrac{1}{2}\lambda$
$m=0,\:1,\:2,\:3,\:\cdot\cdots$
の式において、$m=0,\:1,\:2,\:3,\:\cdot\cdots$ より、暗線も明線も $\lambda$ ずつ増加するからです。
または、$(m+1)$ 番目と $m$ 番目の差をとって、
$2\Delta d = (m+1)\lambda \:-\: m\lambda = \lambda$
$2\Delta d = \left\{(m+1)\lambda+\dfrac{1}{2}\lambda \right\} \:-\: \left\{m\lambda + \dfrac{1}{2}\lambda \right\} =\lambda$
図でイメージしてみましょう。
$\lambda$ は一定ですから、下図のようにガラスのなす角 $\theta$ が大きくなれば、暗線(明線)間隔は短くて済み、$\theta$ が小さくなれば、暗線(明線)の間隔は広くなります。
答え2
問題
ガラスの真上から単色光を照射しておいて、ガラスの真下からその透過光を観測する場合、
真上から見て暗線だった位置で観測されるのは、明線か暗線か?
答え 明線
理由
下から見た場合の光の経路を考えてみます。
最短を考えれば、
赤で示した光が下に抜けるためには、空気層の上下のガラス面で2回反射する必要があります。下図。
この際、それぞれ反射に際して、位相が $\pi$ 変化することに注意します。
また、青で示した光はそのまま透過する、と考えます。
そうすると、青で示した光と赤で示した光の行路差は、 $3 \times d \: – \: d=2d$ となります。
これを $3d$ と間違える例が多いので注意してください。
赤で示した光は2回の反射が必要で、それぞれ位相が $\pi$ だけ変化しますから、元のヤングの条件式から反転してさらに反転します。
したがって結局、元の条件に戻り、
明線 : $2d=m\lambda$
暗線 : $2d=m\lambda + \dfrac{1}{2}\lambda$
$m=0,\:1,\:2,\:3,\:\cdot\cdots$
となるため、上から見た場合と比べて明暗は反転している、ということになります。
つまり、上から見て明るいところは、下から見ると暗くなっている・・・というわけですね。
そうでないと、「装置を工夫すれば光の強さを無限に増幅できる」なんてことになりそうですね。これはアリエナイ。
また当然、暗線(明線)間隔 $\Delta x$ は、ガラスの上下どちらから見て同じ値 $\Delta x$ をもち、
$\Delta x = \dfrac{L\lambda}{2D}$
となります。
答え3
問題3
真上から見て、2つのガラスの合わさるところ(図の O )では明線か暗線か?
答え 暗線
理由
点 O においては空気層の厚みはほぼ 0 と考えられます。
したがって、$d=0$ 、$m=0$ で次の式を満たします。
暗線 : $2d=m\lambda$
したがって、暗線。
もう少し、イメージで考えてみましょう。
点 O では、次のような状態だと考えられます。
青で示した光は反射に際して位相 $\pi$ 変化せず、赤で示した光だけが位相 $\pi$ 変化します。
空気層の厚みはほぼ 0 ですから、行路差もほぼ 0 となります。
よって、赤で示した光と青で示した光は位相が $\pi$ ずれており、打ち消しあって暗くなると考えられます。
コメント